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福岡高等裁判所 昭和62年(行コ)8号 判決

大分県竹田市大字小塚字塩井三四三番地

控訴人

農事組合法人竹田養豚組合

右代表者理事

野尻文夫

大分県竹田市大字竹田字殿町二〇七四番地一

被控訴人

竹田税務署長

太田幸助

右指定代理人

吉松悟

末廣成文

西山俊三

杉山雍治

溝口透

岩崎光憲

右当事者間の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定取消請求控訴事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人が、控訴人の昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日までの事業年度の法人税について、昭和五八年三月三一日付けでした過少申告加算税及び重加算税の賦課決定を取り消す。被控訴人が、控訴人の右事業年度の法人税について、昭和五八年一二月二二日付けでした更正処分及び過少申告加算税の賦課決定をいずれも取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張の関係は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三枚目裏一一行目の「ている。」の次に「右異議申立書のうち原本は控訴人が提出後被告控訴人において破棄したものと思われ、控えは控訴人代表者が右提出後持ち帰つた。したがつて、本件一の賦課決定に対しては適法な異議申立てがなされたものである。」を加える。

2  同四枚目表八行目の「ものであつて、」の次に「第二修正申告は無効なものであるから、」を加える。

3  同四枚目表一〇行目の「本件更正処分は、」の次に「右のように無効な第二修正申告に基づいてなされたものであるばかりでなく、」を加える。

4  同四枚目表一二行目の「八一二七円を」の次に「控訴人の倒産を救うために」を加える。

5  同四枚目裏四行目から同五行目までの「違法なもので、」を「違法なものである。」と改め、その次に「のみならず、本件更正処分は、控訴人が本件事業年度の法人税の確定申告において所得金額の計算上支払利息として損金に計上したもののほか、豊栄信用組合、竹田市農業協同組合等に対する控訴人の借入金の支払利息をも損金として計上すべきであつたにもかかわらず、これを計上せずに控訴人の法人税を算定した点でも違法であるほか、利子所得にかかる源泉所得税一七〇万七四一一円についても、そもそも右利子所得は控訴人の所得ではないが、仮に控訴人の所得であつたとしても、所得金額の計算上損金として計上すべきであつたにもかかわらず、所得に加算したのも違法である。さらに、有限会社平田建設(以下「平田建設」という。)に対する貸付金についても、本件事業年度において貸倒損失として損金に九〇〇万円を計上すべきであつたにもかかわらず、所得金額の計算上これを損金に計上しなかつた点で違法である」を加える。

6  同七枚目表一〇行目の「控除しているため、」を「控除しているが、」と改め、その次に「右は法人税法四〇条により損金の算入としては否認すべきものであり、」を加える。

7  同七枚目裏七行目の一「ある。」の次に改行のうえ、

「(三) その他

(1)  控訴人が主張する豊栄信用組合、竹田市農業協同組合等に対する借入金の支払利息は、本件更正処分の所得金額の計算にあたつて、いずれも損金に算入することができないものである。すなわち、

豊栄信用組合に対する支払利息三一三万六一八二円については、株式会社文伸社(以下「文伸社」という。)の借入にかかる支払利息であり、控訴の借入にかかるものではないから、これを控訴人の所得金額の計算上損金として算入することはできないし、ほかに控訴人が豊栄信用組合から借り入れ、利息を支払つたことはない。

また、竹田市農業協同組合に対する支払利息八八二万九九〇〇円については、控訴人が本件事業年度の確定申告にあたつて、既に支払利息として損金に計上しているものであるから、これを二重に損金として算入することはできないし、右支払利息の一部は、控訴人ではなく農事組合法人塩井養豚組合(以下「塩井養豚組合」という。)の借入にかかる支払利息であるから、この点においても控訴人の所得金額の計算上損金に算入することができないものである。

ほかに、控訴人が自己の借入金について利息を支払つた形跡はなく、したがつて、控訴人の主張するような支払利息を所得金額の計算上損金に算入することはできない。

(2)  平田建設に対する貸付金を貸倒損失として損金に計上するかどうかについては、そもそも右貸付金が文伸社において貸し付け、既に全額回収ずみのものであるのみならず、控訴人において当初の確定申告にあたつて貸倒損失として計上していたものを、竹田税務署の職員の指摘により修正申告にあたつて控訴人自らその損失算入を否認したものであるほか、右貸付金、貸倒れの存在が明らかではないから、いずれにせよ、控訴人の所得金額の計算上損金に算入することはできない。」を加える。

三  証拠関係は原審及び当審記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、本件訴えのうち、被控訴人が控訴人の昭和五五年四月一日から昭和五六年三月三一日までの事業年度の法人税について、昭和五八年三月三一日付けでした過少申告加算税及び重加算税の賦課決定(本件一の賦課決定)並びに昭和五八年一二月二二日付けでした更正処分(本件更正処分)のうち法人所得金額一七八一万二〇六六円、納付すべき法人税額二三八万九三〇〇円を超えない部分の各取消請求にかかる訴えは、不適法であつて却下すべきものであり、控訴人のその余の請求は失当として棄却すべきものと判断するものであつて、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決九枚目表六行目の「成立に争いのない」の次に「甲第一〇号証、」を、同一一行目の「同証言、」の次に「原審及び当審(一部)における」を、同裏一行目の「られ、」の次に「当審における控訴人代表者尋問の結果中右認定に反する部分は信用することができず、ほかに」をそれぞれ加える。 2 同一〇枚目表二行目の「竹田税務署」の次に「は熊本国税局に所属する税務署であり、同署」を加え、同行目の「およそ右各規定に副つた」を「右各規定に従つた」と改め、同六行目の「整理簿」の次に「(乙第一七号証)」を加え、同七行目の「配する」を「配付する」と、同行目、同八行目の各「配布」を「配付」と、同八行目から同九行目までの「法人用の一般事務整理簿」を「法人一般事務整理簿(乙第一八号証)」とそれぞれ改める。

3  同一〇枚目裏七行目の「及び」の次に「法人」を加える。

4  同一一枚目表三行目から同四行目までの「存在しなくなつた」を「なされなかつた」と改め、同裏二行目の「説明をした。」を「説明したところ、」と改め、その次に「野尻文夫が右説明に納得したため、本件異議申立書の受理を保留にした。」を加える。

5  同一一枚目裏一一行目の「訴外」の前に「そこで、」を、同行目の「一九日、」の次に「同人の右説明に納得して」を、同一二枚目表三行目の「及び」の次に「法人」を、同九行目の「野尻文夫は、」の次に「昭和二六年一二月以降長年にわたり、」をそれぞれ加え、同行目の「でもあり」を「の経験を有するものであるが」と改め、同裏一行目同三行目の各「更正」の次に「の」をそれぞれ加える。

6  同一二枚目裏一二行目の「取り下げた。」の次に改行のうえ、

「(7) なお、控訴人代表者野尻文夫は、昭和六〇年八月二一日の原審第二回口頭弁論期日においては、本件一の賦課決定に対し、異議申立て及び審査請求をしていなかつたことを自認していた。」を加える。

7  同一三枚目表六行目の「かつ、」の次に「竹田税務署における」を、同七行目の「及び」の次に「法人」を、同八行目の「受理手続」の前に「異議申立ての」を、同九行目の「申立」 の次に「て」をそれぞれ加える。

8  同一三枚目表一一行目の「右にみたように」の次に「国税に関する処分についての」を加え、同行目の「による到達」を削り、同行目から同一二行目までの「行政庁の」を「税務署長等(国税通則法七五条一項参照)による」と改め、同裏一行目の「申立」の次に「て」を加え、同行目、同三行目の各「行政庁」を「税務署長等」と改め、同二行目の「場合にも、」を「場合には、と改め、その次に「国税通則法一一〇条一項の趣旨に照らし右の趣旨を明らかにする書面を異議申立人から徴するのが望ましい事務処理であることはもちろんであるが、仮に右のような書面を徴しなかつた場合においても、」を加える。

9  同一三枚目裏一〇行目の「以上のとおり、の次に「右認定の本件事情の下においては、」を、同行目の「対し、」の次に「控訴人による」をそれぞれ加え、同行目から同一一行目までの「当初より不存在であつた」を「結局なされなかつた」と改め、う一二行目の「当たらない。」の次に「ほかに、控訴人の本件異議申立書による異議申立てが適法になされた旨の主張を認めるに足りる証拠もない。」を、同一四枚目表一行目の「更正」の次に「の」をそれぞれ加える。

一〇 同一四枚目裏七行目の「増額更正処分」の前に「ところで、申告納税方式を採る法人税においては、納付すべき税額は、更正の請求あるいは納税申告書記載の錯誤が認められるなどの特段の事情がない限り、原則として納税者の行う申告により確定し(国税通則法一六条一項一号)、これにより納税者は右申告にかかる税額の法人税を納付すべき義務を負うことになるが、この理は修正申告がなされた場合にも妥当するものである。そして、本件のように修正申告がなされた後に増額更正処分がなされた場合には、その」を、同一〇行目の「からいうと、」の次に「既に修正申告により確定した納付すべき税額にかかる部分の納税義務に影響を及ぼすものではない(国税通則法二九条一項)から、」をそれぞれ加え、同一二行目の「(国税通則法二九条一項)」を削り、同一五枚目表一行目の「ものであるから、を「ものである。」と改め、その次に「したがつて、」を加え、同二行目の「税額等」を「納付すべき税額の部分」と改め、同三行目の「利益はない」を「利益はなく、」と改め、その次に「修正申告により確定した納付すべき税額を超える限度においてこれを取り消せば足りるもの」を加える。

一一 同一五枚目表九行目の「一五号証、」の次に「乙第二号証、」を加え、同末行から同裏一行目の「前記乙第五ないし第一〇号証、」を削り、同行目の「右証言、」の次に「原審及び当審における」を加える。

一二 同一六枚目表一二行目の「支払利息は」を「支払利息について、」と改め、その次に「野尻文夫に前記調査の結果を説明し、野尻文夫からも資料の開示、説明を受けたうえ、結局右支払利息は、いずれも既に当初の確定申告において支払利息として計上されていたものであることが判明したので、これは新たに計上すべき支払利息とは」を、同裏五行目の「代表者は、」の次に「右内容を納得したうえ、その場で、」をそれぞれ加える。

一三 同一七枚目表一行目の「なお」の前に「かように認められるのであり、」加え、同行目の「五月三一日」を「六月二日」と、同六行目の「取り下げた。」を「取り下げたことは、先に認定したところである。」とそれぞれ改め、同九行目の「すなわち、」の次に「原審及び当審における」を、同裏八行目の「しかし、」の次に「右」を、同一八枚目表七行目の「原告代表者野尻文夫」の前に「右」を、同八行目の「同年」の前に「前記のとおり」を、同行目の「行つた」の次に「第二」をそれぞれ加え、同九行目の「その理由は、」から同一〇行目の「これを」までに「その請求は、第二修正申告の内容を前提としながら、さらに、文伸社が、控訴人に対する二〇〇〇万円の未収利息債権を一たん放棄していたが、その後右債権放棄を」と改め、同末行の「異議申立て」の前に「前記のとおり」を加える。

一四 同一九枚目表三行目の「申告したから、」の次に「前示のように更正の請求も理由なきに帰し、第二修正申告の申告書の記載内容の錯誤が主張されず、また右錯誤の事実もうかがえない本件事情の下においては、」を加え、同行目の「所得、税額」を「納付すべき税額」と改める。

一五 同二〇枚目表四行目の「とともに、」から同六行目の「と解され、」までを「ものと解されるが、その実現がいつ行われたかを示す認識基準としては、課税の公平等を図るため、画一的かつ明確な基準によることが望ましく、法人税法二二条四項の規定の趣旨等にかんがみると、その収益の原因となる権利が確定したときにその実現があつたものとして右権利確定の時期の属する年度分の課税所得として計算するといういわゆる権利確定主義によるのが相当である。そして、右の権利確定の時期は、それぞれの権利の特質を考慮して決定されるべきものであるが、本件で問題となつている」と改め、同一二行目の「第一四号証、」の次に「乙第一六号証、原審及び当審における」を、同裏一行目の「結果」の次に「並びに弁論の全趣旨」を、同五行目の「第一四号証」の次に「、乙第一六号証」をそれぞれ加え、同七行目の「行つた」を「行い、」と改め、その次に「右内容証明郵便はそのころ控訴人に到達した」を加える。

一六 同二〇枚目裏一二行目、同二一枚目表四行目の各「第一四号証」の次に「、乙第一六号証」を、同七行目の「野尻哲は、」の次に「その後、被控訴人から本件債務免除が本件事業年度内に効力を生じたものと認定されて本件更正処分がなされるに至つたことから、これによる納税の負担を回避するのに利用する証拠を作成するため、」をそれぞれ加える。

一七 同二二枚目表二行目の「その効力」から同七行目」の「ないのである。」までを「本件債務免除のような単独行為においても、原則として債権者による右意思表示が債務者に到達した時にその効力が生ずるものであり、右意思表示に条件、期限を付すことができるとしても、その効力を右意思表示がなされる前に遡及させて生じさせることまではできないものというべきである。」と改める。

一八 同二二枚目表八行目の「第一、二号証」を「第一ないし第三号証」と、同行目の「第五、六」を「第六、七」とそれぞれ改め、同行目の「第一四号証、」の次に「乙第三号証、第一六号証、」を、同九行目の「一二」の前に「一一、」を、同行目の「一二号証、」の次に「第一五号証、第二三号証、原審及び当審における」を、同一〇行目の「野尻文夫は、」の次に「本件債務免除を行つた直前ともいうべき昭和五五年六月三日、控訴人が本件前事業年度の確定申告をした際には、本件債務免除の対象となつている債務を未払費用、未払い金の債務として計上していた(但し、その金額は、控訴人代表者野尻文夫に対し未払費用二〇二二万三三八三円、未払金五八二四万八一二七円、訴外野尻哲に対し未払い金三六〇万円としている。)ところ、その後、」を、同二三枚目表六行目の「本件更正処分」の前に「前記のとおり」をそれぞれ加え、同一一行目の「八月二三日」を「五月二八日」と改め、同裏一〇行目の「、訴外」から「仕立てて」までを削る。同二四枚目表三行目の「明らかである。」を「明らかであり、」と改め、その次に「右認定を覆すに足りる証拠はない。」を加える。同二四枚目表七行目の「右以降」を「そのころ」と改め、同裏四行目の「であつて、」の次に「他方、」を加え、同行目の「所得に」から同五行目の「八一二七円」までを「所得については右金額」と改める。

一九 同二五枚目表五行目の「第三号証」の次に「及び弁論の全趣旨」を、同六行目の「申告において、」の次に「自己が取得した利子所得かかる」をそれぞれ加え、同一一行目の「右所得税」から同一二行めの「いるから、」までを削る。

二〇 同二五枚目裏一行目から同二行目までの「ことになる。」を「ことになり、」と改め、その次に「損金に算入することができないものである。したがつて、右所得税の金額を法人税の額から控除したうえ、さらに損金に算入すべきである旨の控訴人の主張は採用することができない。

なお、控訴人は、右利子所得は控訴人が得たものではない旨をも主張するが、仮にそうであるとすれば、控訴人の法人税の税額を計算するにあたつて、右利子所得にかかる所得税の金額を控除することができないことになるのであつて、その主張自体理由がないことが明らかである。」を加え、その次に改行のうえ、次のとおり加える。

「(三) 支払利息の損金不算入について

控訴人は、本件事業年度の所得金額の計算にあたつて、確定申告書に計上した支払利息のほかに、豊栄信用組合、竹田市農業協同組合等に対する借入にかかる支払利息を損金に計上すべきである旨を主張するので、検討する。

前記甲第四号証、第七号証、意一〇号証、第一五号証、乙第一ないし第三号証、第五、第六号証、第八号証、第一五号証、成立に争いのない甲第一八号証の一、四、五第一九号証の一、三、第二四号証の二、乙第一三、一四号証、第二六ないし第二九号証、原本の存在、成立に争いのない乙第二四号証の三、第二五号証、当審における控訴人代表者尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一八号証の二、三、第一九号証の二、第二〇号証、第二一ないし第二三号証の各一、二、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる乙第二四号証の一、二、第三〇号証、原審証人佐藤勉の証言、原審及び当審における控訴人代表者尋問の結果、弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

(1)  控訴人は、本件事業年度の法人税につき、昭和五六年五月三一日確定申告書を被控訴人に提出した(以上の事実は当事者間に争いがない。)が、その際、添付の決算報告書中の損益計算書に営業外費用として支払利息を一七六五万五九七六円、特別損失として雑損を一六五〇万円それぞれ計上し、雑損の内訳を平田建設に対する一〇〇〇万円の貸倒損失等であることを明らかにしていた。その後、竹田税務署の職員である訴外佐藤勉が控訴人について調査を行つた結果、本件事業年度分については右貸倒損失一六五〇万円を否認すべきである。雑収入が計上されていないなどの問題があることが判明し、前示のように控訴人代表者野尻文夫に対しその旨を指摘して修正申告を求めたところ、野尻文夫はこれを了承し、修正申告をすることを約した。

(2)  そこで、野尻文夫は、自分が経営する税理士事務所において調査した結果、訴外佐藤勉の指摘にかかる貸倒損失一六五〇万円の否認、雑収入の計上洩れ等について右指摘どおり認めたほか、新たに支払利息一二四七万七六三三円の計上洩れがあつたとして、その旨の修正申告書(甲第四号証、乙第二号証)を作成し、昭和五八年二月末ころ被控訴人にあてて郵送した。

訴外佐藤勉は、前示のとおり右修正申告書を点検したところ、前記調査内容と異なり、新たな支払利息が計上されていたため、右修正申告書の受理を保留にし、野尻文夫に来訪を求めた。その後、野尻文夫が竹田市農業協同組合作成の証書貸付金元帳の写等の資料を持参して説明のために竹田税務署に赴いたので、訴外佐藤勉は、控訴人が本件事業年度の支払利息として計上しようとしているものの内訳、明細を尋ね、野尻文夫の説明、右資料によつて支払利息を計算したところ、野尻文夫の説明による支払利息には確定申告書において既に計上された支払利息以外のものかがないばかりか、その額を合計しても右計上ずみの支払利息の額を下回ることが判明し、その旨を野尻文夫に説明した。野尻文夫が訴外佐藤勉の右説明に納得したので、控訴人は、前示のとおり昭和五八年三月二三日貸倒損失一六五〇万円を否認し、新たに計上していた支払利息一二四七万七六三三円を撤回するなどして第二修正申告を行つた。

(3)  その後、控訴人は、前示のとおり第二修正申告に対して更正の請求等を行つたが、その際、右の貸倒損失、支払利息の点に不服がある旨を主張したことはなかつた。

また、控訴人は、昭和五九年一月一三日本件更正処分及び本件二の賦課決定に対して異議申立てを行い、その後右異議申立てが国税不服審判所長に対する審査請求があつたものとみなされ(以上の事実は糖者勘に争いがない。)、審理がなされたが、その際にも右の貸倒損失、支払利息の点を不服の理由としたことはなかつたし、本件訴訟の審理においても、原審の段階では右の各点を本件更正処分及び本件二の賦課決定に対する違法事由として主張したことはなかつた。

(4)  控訴人は、当審において、本件事業年度の確定申告書に計上した支払利息一七六五万五九七六円を超える支払利息があり、平田建設に対する貸付金は貸倒損失になる旨を主張し、右支払利息の主張を裏付けるために、甲第一八号証ないし五、第一九号証の一ないし三、第二〇号証、第二一ないし第二四号証の各一、二を提出するが、右各証拠は、立証趣旨が不明瞭であるばかりでなく、控訴人代表者野尻文夫が代表者である塩井養豚組合、文伸社の借人にかかる支払利息の存在しか立証しないものが数多く含まれ、控訴人が本件事業年度に支払つた利息の明細を十分に明らかにするものではないし、野尻文夫自信、右の塩井養豚組合、文伸社の支払利息も塩井養豚組合、文伸社が支払つたことは認めながらも、なお実質的には控訴人が支払つたものであると主張している。しかし、野尻文夫は、右のような主張をしながら、他方、代表者が同一人であることなどを奇貨として、塩井養豚組合、文伸社の納税申告においては、右各主張にかかる支払利息を損金として計上している。

(5)  q竹田市農業協同組合に対する支払利息については、控訴人は、本件事業年度の確定申告にあたつて、支払利息として八八二万九九〇〇円等を計上していたが、控訴人代表者野尻文夫が前示のように第二修正申告前に訴外佐藤勉に資料を持参して説明した際には、野尻文夫の説明による支払利息を合計しても右の八八二万九九〇〇円等の計上ずみの額を超えることがなかつた。また、野尻文夫は、右の確定申告において計上した支払利息の中に、塩井養豚組合の支払にかかる利息三五五万四二九〇円をも控訴人の支払にかかる利息として計上し、しかも塩井養豚組合の昭和五六年三月期の確定申告にあたつては、右の三五五万四二九〇円を同組合の支払にかかる利息として二重に損金に計上している。本件事業年度における控訴人の竹田市農業協同組合に対する支払利息は、控訴人が当審において提出した前記甲号各証によつても確定申告の際計上された支払利息のうち八八二万九九〇〇円を超える支払利息のあることもうかがうことができないばかりか、むしろ右金額を下回る可能性が高い。

(6)  豊栄信用組合に対する支払利息については、控訴人が遠く離れた東京都内に所在する豊栄信用組合から借り入れたことをうかがうことはてできず、右は、野尻文夫が代表者で、かつ、東京都内に所在する文伸社が借り入れ、支払つたものである。

文伸社は、東京都内に所在し、不動産業、金融業を営んできた会社であつて、豊栄信用組合とは右営業に関係して継続的な取引があつたが、控訴人は、文伸社、豊栄信用組合とは遠く離れた大分県竹田市において、文伸社とは全く事業内容を異にする養豚業を営んできたものであつて、豊栄信用組合との間に融資取引があつたものではない。

控訴人は、本件事業年度の確定申告において豊栄信用組合に対する支払利息三一三万六一八二円を損金に計上しているが、右支払利息は、文伸社の豊栄信用組合からの借入にかかる支払利息であり、現に文伸社がその確定申告において右支払利息を損金に計上しているところである。

(7)  控訴人代表者野尻文夫は、前認定のとおり昭和二六年一二月以降税理士として税務実務に携わり、現在も東京都内において税理士事務所を経営しており、税務実務に精通しているものであるが、文伸社、塩井養豚組合の代表者をも兼ねていることを奇貨とし、前示のとおり同一の支払利息を文伸社、塩井養豚組合のみならず控訴人にも重複して損金として計上するなどして、その税務実務に関する知識、経験を濫要し、納税の負担を不当に回避しようとしてきた。

以上のとおりであつて、右認定を覆すに足りる的確な証拠はない。

右に認定したところによれば、控訴人が本件事業年度の確定申告において支払利息として損金に計上した前記一七六五万五九七六円は、文伸社、塩井養豚組合の借入にかかる支払利息も多額含まれ、その分だけ過大に損金が計上されているものであつて右金額を超えてさらに損金として計上できる支払利息がないことは明らかである。

控訴人は、本件事業年度の確定申告において計上した右支払利息のほかに、計上されていない支払利息がさらに存在する旨を主張し、当審に至つて前記甲号各証を提出するとともに、当審における控訴人代表者尋問において、野尻文夫は、右主張に副うかのような、豊栄信用組合からの借入は名目上は文伸社の名義を利用しているが、実質上は控訴人の借り入れたものであつて、その利息も控訴人の支払つたものである。竹田市農業協同組合からの借入も、野尻文夫ら個人の預金を担保に入れて控訴人が多額の借入を行つており、その利息も八分ほどであり、控訴人が多額の利息を支払つているから、確定申告において計上していない支払利息がある。塩井養豚組合の借入も、控訴人が塩井養豚組合を吸収し、その経営費用は全部控訴人が負担することになつているから、その利息も控訴人が支払つているなどの旨を供述するが、右は、その裏付けとなる具体的、客観的な根拠を欠き、本件事業年度の確定申告において計上された前記一七六五万五九七六円の支払利息の内容すら的確に説明できるものではないのみならず、前認定に照らして到底信用できる内容ではないといわざるを得ない。ほかに控訴人の右主張を認めるに足りる証拠はない。

したがつて、控訴人主張のような支払利息を控訴人の本件事業年度の所得金額の計算上損金に算入しないことは正当である。

(四) 貸倒損失の否認について

控訴人は、本件事業年度の所得金額の計算にあたつて、平田建設に対する貸付金は貸倒損失として損金に九〇〇万円を計上すべきである旨を主張するが、前認定のように、控訴人は、本件事業年度の確定申告において平田建設に対する貸付金一〇〇〇万円を貸倒損失として損金に計上していたところ、その後、訴外佐藤勉の指摘により、昭和五八年二月末ころの修正申告、第二修正申告においていずれも控訴人自身その損金算入を否認しているばかりでなく、前記乙第二七ないし第三〇号証、弁論の全趣旨によれば、平田建設に対する右一〇〇〇万円の貸付金は、控訴人ではなく、文伸社が貸し付けたものであり、文伸社において既に全額回収ずみであることが認められるのであるから、右主張は、その前提を欠き、理由のないことが明らかである。したがつて、控訴人主張の右貸倒損失を控訴人の本件事業年度の所得金額の計算上損金に算入しないことは、もとより正当である。」

二一 同二五枚目裏三行目冒頭の「(三)」を「(五)」と、同四行目の「確定した」を「申告された」と、同五行目の「八一八四万」を「八〇八四万」と、同八行目の「二〇五一万九〇〇〇円」を「一九五一万九四七七円」と、同九行目の「捨てた」から同一〇行目の「同じ。」までを「捨てると一九五一万九〇〇〇円となる。」とそれぞれ改める。同二六枚目表六行目の「四七一万」を「四四八万」と、同七行目から同八行目までの「三〇一万九〇〇〇円」を「二七八万一九五九円」と、同九行目の「捨てた」から「同じ。」までを「捨てると二七八万一九〇〇円となる。」と、同一一行目の「六二万」を「三九万」とそれぞれ改め、同一二行目の「右金額」から「なるところ、」までを削り、同裏二行目から同三行目の「、右各金額よりも少額である。」を「になる。」と改める。

二二 同二六枚目裏六行目の「前示のとおり、」の次に「本件更正処分は適法になされたものであつて、」を加え、同八行目の「六二万」を「三九万」と改め、同行目の「多額となるから、」の次に「昭和五九年法律第五号による改正前の国税通則法六五条二項所定の正当な理由が認められない本件においては、」を加え、同九行目の「三万一一〇〇円」を「一万九六〇〇円」と、同一〇行目の「べきところ」から同一二行目の「のである。」までを「ことになる(昭和六二年法律第九六号による改正前の国税通則法六五条一項)。」とそれぞれ改める。

二 よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松田延雄 裁判官 湯地紘一郎 裁判官 升田純)

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